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高松高等裁判所 昭和53年(ネ)74号 判決

控訴人 愛媛県信用保証協会

右代表者理事 大西忠

右訴訟代理人弁護士 中村誠十郎

被控訴人 清水定

右訴訟代理人弁護士 大島博

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し、金一、六六二万七、三九五円及びこれに対する昭和五一年三月三一日から支払済みまで年一割九厘五毛の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一・二審を通じこれを二分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。この判決は、控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金三、六一一万二、〇二四円及び内金一、六六二万七、三九五円に対する昭和五一年三月三一日から、内金一、九三九万五、九三七円に対する同年一二月二八日から各支払済みまで年一割九厘五毛の割合による金員を支払え(当審において請求を減縮)。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正・付加するほか、原判決事実摘示(請求原因6を除く。)と同一であるから、これを引用する(但し、原判決の請求原因4の(二)の(2)ないし(4)は、同(二)の(1)に関するものではない。)。

原判決四枚目裏一〇行目の冒頭から同一一行目の「川は」までを「これを使用させ、同人を補助者として」に改め、同一二行目の記載に次いで、「そして、原告には、被告の妻に右連帯保証契約をする権限があると信ずべき正当の理由があった。」を加える。

原判決七枚目裏末行の「の事実は否認する」を「、(4)の事実は否認し、(二)(3)の事実は知らない」に改め、同八枚目表六行目の「同広田博」の次に「、」を加え、同裏二行日の冒頭から四行目の「含む」までの記載を「被告関係部分の成立を否認する、但し被告名下の印影が被告の印章によるものであることは認める、それは訴外小川馨鶯に冒用されたものである。」に改める。

(控訴人訴訟代理人の陳述)

一、原判決の請求原因4の(二)の(1)の主張が認められないとしても、被控訴人は訴外小川に対し、自己に代わって、訴外小川から五〇〇万円の借入れ債務の担保として訴外城辺農業協同組合に差し入れる約束手形に保証をなす権限を授与し、そのため自己の妻を通じ実印を交付したところ、訴外小川は右権限の範囲を超え、いわゆる署名代理の方式により控訴人との間で本件連帯保証契約を締結したものである。そして、控訴人には、訴外小川に右連帯保証契約を締結する権限があると信ずべき正当の理由があったが、その詳細は原判決の請求原因4の(二)の(2)ないし(4)のとおりである。

二、1. 原判決の請求原因5の(一)の(2)の代位弁済金一、六七四万四、八五七円につき、昭和五二年四月二七日訴外小川から金一一万七、四六二円の弁済があったので、右代位弁済による求償残高は金一、六六二万七、三九五円となった。

2. 原判決の請求原因5の(二)の(2)の代位弁済金三、四一八万七、二七一円につき、訴外小川から、昭和五一年一二月二七日金一、六三八万〇、二八一円(任意競売による配当金)、昭和五二年四月二七日金二八万二、五三八円、同年五月二日金九二万三、四六二円の各弁済があったので、右代位弁済による求償残高は金一、九三九万五、九三七円となった。

3. よって、控訴人は被控訴人に対し、右求償残高合計金三、六一一万二、〇二四円及び内金一、六六二万七、三九五円に対する昭和五一年三月三一日から、内金一、九三九万五、九三七円に対する同年一二月二八日から各支払済みまで約定の年一割九厘五毛の割合による遅延損害金の支払を求める(当審において減縮)

(被控訴人訴訟代理人の陳述)

控訴人主張の右一の事実は正当理由を争いその余を認める。

(証拠) 〈省略〉

理由

一、原判決の請求原因3のうち、控訴人と訴外商工組合中央金庫(以下「訴外商工中金」という。)及び訴外宇和島信用金庫南宇和支店(以下「訴外信用金庫」という。)との間にそれぞれ控訴人主張のごとき保証契約成立手続についての約定がなされていたことは当事者間に争いがなく、その余の事実及び原判決の請求原因1・2・5の各事実は、成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第八ないし第一一号証、原審における証人宇都宮清秀の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証及び第一二号証の各一(いずれも被控訴人関係部分を除く。)、原審における証人広田博の証言及びこれはより真正に成立したものと認められる甲第七号証(被控訴人関係部分を除く。)原審における証人小川馨鶯(第一・二回)、同水野藤生の各証言、当審における証人小川馨鶯の証言並びに本件弁論の全趣旨によってこれを認めることができ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

二、そこで、まず訴外小川が訴外商工中金から受ける二、〇〇〇万円の貸付に関して締結された控訴人主張の連帯保証契約の成立の有無について判断するに、成立に争いのない甲第一二号証の二、原審における証人宇都宮清秀の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一二号証の一(被控訴人関係部分を除く。)原審(第一・二回)における証人小川馨鶯の証言、当審における同証人の証言の一部によると、訴外小川が訴外商工中金から受ける二、〇〇〇万円の貸付に関し控訴人との間で締結した前記認定の信用保証委託契約(原判決の請求原因1の(一)と同一)に基づいて発生する求償債務につき、被控訴人は連帯保証人となることを承諾し、訴外小川に印鑑及び印鑑登録証明書(甲第一二号証の二)をを交付したこと、訴外小川は、被控訴人の右承諾に基づき、右信用保証委託契約の契約書(同号証の一)の連帯保証人欄に自己の妻をして被控訴人の氏名を代署させ、その名下に右印鑑を押捺したものであること、右契約書を、訴外小川は自己が貸付を受ける訴外商工中金を通じ控訴人に提出したことが認められる。右認定に反する証拠として、原審における証人小川馨鶯の証言(第二回)によって真正に成立したものと認められる乙第一号証、当審における証人小川馨鶯の証言、原審(第一・二回)及び当審における被控訴人本人尋問の結果があるが、いずれも原審における証人小川馨鶯の証言(第一・二回)に照らして信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、控訴人主張の右連帯保証契約は、被控訴人からその権限を授与された訴外小川によって有効に締結されたものであることは明らかである。

そうすると、控訴人の被控訴人に対する右連帯保証契約に基づく請求(控訴人は当審において、昭和五二年四月二七日訴外小川から金一一万七、四六二円の弁済を受けた旨自陳し、請求を減縮した)は理由がある。

三、次に、訴外小川が訴外信用金庫から受ける三、三〇〇万円の貸付に関して締結された控訴人主張の連帯保証契約の成立の有無について判断する。

右の連帯保証契約を被控訴人自ら締結したとの控訴人主張の事実については、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。かえって、原審(第一・二回)及び当審における証人小川馨鶯の証言及び被控訴人本人尋問の結果によると、訴外小川は、自己が訴外信用金庫から受ける三、三〇〇万円の貸付に関し控訴人との間に締結した前記認定の信用保証委託契約(原判決の請求原因1の(二)と同一)に基づいて発生する求償債務の連帯保証人となることにつき、被控訴人の承諾が得られていないにもかかわらず、右信用保証委託契約の契約書(甲第一号証の一)の連帯保証人欄に自己の妻をして被控訴人の氏名を代署させ、その名下に他の目的で交付を受けた被控訴人の印鑑を押捺し、これを控訴人に訴外信用金庫を通じて提出したものであって、被控訴人の関知しないところであることが認められる。したがって、控訴人の右主張は失当であり採用できない。

次いで、控訴人主張の各表見代理の成立の有無について判断するに、成立に争いがない甲第二号証、原審における証人広田博、同水野藤生、同宇都宮清秀の各証言、原審(第一・二回)及び当審における証人小川馨鶯の証言及び被控訴人本人尋問の結果によると、訴外信用金庫が控訴人の信用保証の下に貸付をなすには、訴外信用金庫において信用保証委託契約書・印鑑登録証明書を相手方から徴し、保証条件の完備を確認のうえ、その旨の報告書とともに右の各書類を控訴人に送付することになっていたこと、訴外信用金庫が被控訴人の保証の下に訴外小川に対し三、三〇〇万円もの多額の貸付をしたことはそれまでになかったことであり、右貸付に際して作成された信用保証委託契約書(甲第一号証の一)の連帯保証人欄における被控訴人の氏名の記載及び捺印も、右に認定したように訴外信用金庫の担当者において確認し得るところ、右氏名の記載及び捺印は訴外小川の妻によるもので被控訴人によりなされたものではなく(このことは金銭消費貸借証書〈甲第七号証〉についても同様である。)右確認のための資料たる印鑑登録証明書(成立に争いない甲第一号証の二)の日付も古いものであったこと、被控訴人の右連帯保証については、当時訴外信用金庫の支店長であった訴外広田博が訴外小川を訪ねたついでに、すぐ近所の被控訴人に対し、「小川君にも貸出しますよ。」と一言声を掛けたことがあるにとどまり、訴外信用金庫若しくは控訴人においてなんらの調査確認の措置も取らなかったこと、訴外信用金庫は以前から被控訴人との間に取引があり、訴外小川に右貸付を行なった当時にも約一、〇〇〇万円の貸付をしていたことや、被控訴人方の近くに控訴人の出張所があったことなどから、訴外信用金庫・控訴人において容易に右の調査確認をなすことができる状況にあったことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実及び前記一の事実によれば、被控訴人の本件連帯保証金額は三、三〇〇万円もの多額であり、その貸付を行なった訴外信用金庫においても被控訴人の保証の下にかかる多額の貸付を訴外小川に対してしたことはそれまでになかったのであるから、特に慎重を期して、被控訴人に対し連帯保証についての調査確認をすべきであると解するのが、金融取引の通念上相当であるところ、控訴人側において右の調査確認を極めて容易になすことができる状況にあるにもかかわらず、格別それがなされたことが認められない本件においては、たとえ控訴人が被控訴人の妻もしくは訴外小川に被控訴人を代理して右連帯保証契約を締結することができる権限があるものと信じたとしても、このように信じたことには過失があり、正当な理由があるとはいえない。したがって、控訴人の各表見代理の主張はその余の点について判断するまでもなく失当であり、いずれも採用できない。

そうすると、控訴人の被控訴人に対する右連帯保証契約に基づく請求は理由がない。

四、よって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、金一、六六二万七、三九五円及びこれに対する代位弁済の日の翌日である昭和五一年三月三一日から支払済みまで約定の年一割九厘五毛の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条・九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西高秀 裁判官 古市清 上野利隆)

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